2018年5月15日火曜日
「騎士団長殺し」
ほとんど一気に読んだ。
この小説は月日をかけて読むことは出来ない。集中してページをめくる。
多分読み手以上に書き手が
それを、スピードを要求するような気がする。
試しに速度を遅くして読んだが、
読後に立ち現れる形象が判然しないのはどうしたことだろう。
およそ千ページの小説がそう言う条件を要求するのは面白い。
主な空間が、小田原の空いた雨田具彦画伯の山荘で過ごす半年余。
主人公は…、画家なのだが、村上らしく肖像画家だ。
作者が敬愛するフィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」の型を借り、
(私が個人的に好きな、)上田秋成を借りる。
「春雨物語」の「二世の縁」が引用があり、イメージ、メタファーとなっている。
驚くべきは、この画家が「二世の縁」の入定の定助のごとく、
何の悟りも得ることなしに凡庸とも言える家庭を持つ。
村上春樹にあまり出てこなかった
娘との幸せそうな在りようが、なんとも素晴らしい。
一緒に暮らせないと妻に言われ、車で北海道、東北を巡る主人公の過去と、
IT企業で成功し、ジャガーを乗り回す白髪の色免の過去。
一方は実に予期せぬ賜物の現実の娘であろう秋川まりえを、
ギャッビー以上の奇抜な手段で手元に得ようとするし、
画家は、意図せず妻柚との性交の夢で娘を、ある意味では…、
夫婦の危機を乗り越え、得るのだ。
もう一度繰り返しになるが、
「騎士団長殺し」は読むスピードがあり、
ゆっくりは読めない。
読後の形作られたかたち、綺麗なシンメトリーなのだ。
たぶん、山本周五郎とか…
小津安二郎、キューブリックの映画とか
そういう…あたりの位置とか境地にこの作者が達したのだろう。
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