2011年8月6日土曜日

「姉妹ベッド」バルザック

晩年の作とあって完成度が高い。

特に興味深かったのは、作者の創作論が語られている。

着想と言うのは、楽しみなもので、その制作、生み出すのは赤ん坊を育ているようなものだと語っている。しかもその子が美人とは限らないし、育つともいえない。

「素晴らしい作品の着想をあたため夢想し、あれこれ考えるのは甘美な仕事である。
それは魔法の葉巻をふかすことであり、気まぐれに耽って楽しむ高級娼婦のような生活を送ることにもひとしい。そのとき作品は幼年時代の若々しい魅力を放ち、生命の誕生の狂おしい歓ぶうちに、ふくよかな花の香りをふりまき、早摘みの果実の甘い汁をしたらせながら現れる。芸術作品の「構想」とその楽しみはこのようなものだ。
自分の着想を言葉で描きだせる者は、それだけで才ある人間だと思われてしまう。
このような能力ならどんな芸術家にもそなわっている。ところが実際に作品を生み出すとなると話は別!作品を分娩し、生まれた子をせっせと育て、毎晩乳をふくませて寝かしつけ、母親のつきぬ愛情を持って毎朝抱きしめ、汚れたからだをなめてやり、すぐに破いてしまうとわかりながら、何度もきれいな着物をきせてやる。手に負えないこの生命がどんなに騒いでもたじろがず、もしそれが彫刻なら万人の目に語りかけ、文学なら万人の知性に、絵画なら万人の思い出に、音楽なら万人の心に語りかける傑作に仕立て上げること、それが「制作」であり、その労苦である。頭の言うとおり、たえず手が前に進まなければならないし、どんな時にも働けるよう準備ができてなければならない。ところが恋が続かないのと同様、頭脳もまた創造的姿勢を保てるとはかぎらないのだ。」

作中でヴェンセスラスというポーランドから亡命した名門貴族が、
パリで自らの才で彫刻家としてデビューするが、
着想と女にうつつを抜かしてしまう。

バルザックの言うとおりだ。

ジャクソン・ポロックのように絵の具をたらす「着想」だけあっても、
ポロックのような絵になる訳ではない。