2020年7月10日金曜日

「実説艸平記」内田百閒

「実説艸平記」はちょっと落語的面白さにあふれている。

文士、森田草平のことを書いている。
百閒先生も漱石門下だが、森田は先輩格であり、
皆が知る「坊ちゃん」のうらなりのモデルとして有名だ。
己にとっては、谷口ジローと関川夏央の
「坊ちゃんの時代」の漫画が一番身近だが、
本人にあったこともないけど、あの顔。既にキャラに満ちているではないか。

めっぽう女に弱い人生で、しかも女にだらしない森田草平だ。
やはり
おかしいのは、車中同郷の美人の知り合いと一緒になり
電車の便所へ立つ。
ところが、水が流れない。しかたなく
真っ白い陶器に残る廃物を残したまま席に戻ると
今度はその美女が便所に行くと立ち上がる。

百閒先生の教鞭をとっていた大学でのシリアスな教師陣の内輪もめ
それにほいほいと担ぎだされた森田草平。

なによりも憎めないほどで金をかりにいく内田百閒との
奇妙な関係にも笑ってしまうが、その割には冷徹な観察眼による描写がいい。
そんなおかしな交友関係なくして「実説艸平記」はない。

著名人たちのこんな伝記がもっとあってもいい。