2010年3月28日日曜日

「鬼の橋」伊藤遊

とにかく一気に読めた。

ファンタジー賞受賞作ということなのだけど、
そこがどうなるのか…、あとがきで作者も記していたが
読んだ方もファンタジーとは何かわからない。

どちらかと言えば、物語の磁力
とでも呼べばいいのか、
その強さがあるように思う。

確かに主人公の小野たかむらは、
異母兄弟の妹を過失で死なせてしまうが、
彼岸であうことはない。

その冥府の通路を彼が開けても
出会うことはなかった。

ここには、
高畑勲版「火垂の墓」で、あの兄弟が
成仏などしていない冒頭のようなリアリティが感じられる。

そしてさらに言えば
もうひとつ。
高畑の凄まじいところは、かれらの両親も、
焼け出された洞穴の住処をさまよう。
少年は妹に、天国に言っていると嘘をつく
ほんのわずかなシーンがあった。

あるのとないのではまるで意味が違う。

もうひとつ、
この「鬼の橋」
にそんなシーンがあったらと思う。

駒井哲郎の絵がいい-「夢を追う子」



これは少し不思議な本だ。
いや、装丁のことではない。装丁はとてもいい。
特に挿絵を担当しているが、版画家の駒井哲郎。

作者、W・H・ハドソンのことだ。
内容は、
ひとりの、選ばれたような少年が
大自然の大地に誘われて行く物語だ。

たぶん作者も知らないインスピレーションに
導かれて描ききった物語なのだと記されたとおり
なのだろう。

その不思議な感覚が面白い。
もちろん、作家自身、無意識で知らずに描くことはなんら
珍しいことではない。

ただその分量と、おそらく一気に書き上げたスピード感、
それがこの物語とシンクロしていることがわかる。

作者ハドソンがその勢いに振り落とされぬように
描ききっている点がなによりも素晴らしい。

あらめてこういうことがあるんだと感心する。

2010年3月26日金曜日

やっぱりディケンズ-「大いなる遺産」



時々、無性に長い小説を読みたくなります。
たぶん歯ごたえのあるものを食べたくなったり、
山に登ってみたくなるようなものと似ているかもしれません。

そういうのにちょうどいいのが
ディケンズ。

「大いなる遺産」は、映画されたそうです。
アメリカに舞台を移し、鍵となる脱獄囚が
ロバート・デ・ニーロが演じたとか。


こういうの、つまりこの小説だけど
映画に向くとも思えないんですけど。

2010年3月16日火曜日

さすがスエーデン-ウルフ・スタルク



この少年期の物語、なんかに近いなと思ったのが
小栗康平の「泥の河」。

ちょっと似ている。
あの、まったく環境の違う少年同士が知り合って
舟を訪ねる、あの感じ。
帰ってほしくなくて、カニに
火を放ちましたね。

家が歯医者でお金持ちのウルフ少年と
ある時期が来ると引っ越すパーシーの関係は
そういう感じ。

しかし読み応えがあります。
少年でなくともです。

そして絵も装丁もいいバランス。

2010年3月8日月曜日

ライラの冒険「琥珀の望遠鏡」

久しぶりにこのような三部作
ファンタジーものを読んだ。

やはり登場人物が多く
それなりに読み進むと混乱する。

広げすぎたせいだろう。
舞台となる幾つかのパラレル世界の
空間的な質も、もうひとつわかりやすいとは言えない。

そこまで必要なのかわからない。

ゲーム的な物語とどう違うのか?
このジャンルを読まぬ私には
諸時期に言えばちょっと不可解にも感じる。