2012年11月9日金曜日

丸谷才一の小説「女ざかり」

なるほど。

こんな小説を描くのか、と思った。
では、丸谷才一がどんな小説を描くと思ったのか
期待したのかと問われたら、

       答えようがない。

こりゃあ、日本の小説では珍しい。小説のふりをしているところもありそうだ。

教養小説と言えば、そうなのだけど、
確かそうでディケンズが日本に来て描いているみたいな気もする。

吉永さそり、いや、さゆりで大林が映画化している…、

それは知らなかったし、見落としていた。
しかし、村上春樹の小説のように原作を映像にしてもおもしろくないだけだと思うけど。
機会があったら、確認してみたい。


2012年10月25日木曜日

「マルコヴァルドさんの四季」


とても面白い話。寓話的なカルヴィーノの現代的な短編。
「みどりの小鳥」も好きですが、こういう誰でも読めるおかしな話しがいい。
読むのは簡単ですけど、作るのは大変だと思います。

寝る前に布団の中で読むと、疲れもとれるでしょう。





2012年10月8日月曜日

萩尾望都対談集

1970年代の手塚治虫や小松左京など、ほとんど亡くなってしまった方々との対談集、
「マンガのあなたSFのわたし」。

それから、1980年代の、こちらも方も半分くらいお亡くなりの方だが、
「コトバのあなたマンガのわたし」を続けて二冊読む。

今年の刊行本だが、これくらい年月が過ぎると逆に新鮮。
対談相手との内容から、
萩尾望都という漫画家の特異な才能と魅力が見えてくる。

そんなことから
随分前に読んだ「百億の昼と千億の夜」を
読み直してみた。

少年漫画と少女マンガの中間領域が
この作家だけど、SFという要素も重なり合う。

再読すると、絵の見事さにあらためて感心させられる。




2012年8月30日木曜日

「佐渡金山」磯部欣三

佐渡へ行ったのは随分前のこと。
この本はさらにそれ以前のものだが、佐渡の歴史がよく伝わってくる。
数年前に近くの古本屋で見つけて更に数年眠らせた文庫本。
読み始めると、旅に出たような感じになるのは、著者がよくよく佐渡を歩きまわったからだろう。

佐渡はあの島の形状もそうだが、実に神秘的だ。
行こうと思ったきっかけの一つが宮本常一の本だったかもしれない。
金山の坑道にも入ったが、粉雪が舞う季節なのに、あんまり暑いのでびっくりした。
やはり足尾銅山に入ったが、あっちは寒い。確か夏だ。
地底の中も核も違うものかと思った。
あんなところで無宿人のように水替えなんかさせられたらたまったもんじゃないと、つくづく体感した次第。

この本を読むと、島の風景が蘇ってくる。「山椒大夫」の厨子王がよくやく盲目となった母と出会うところもこの神秘の島、佐渡にある。

2012年8月5日日曜日

「若林奮 犬になった彫刻家」酒井忠康」

評論家と作家の関係の羨ましい本だ。

若林奮の彫刻を見た時の違和感はなかなかだったことを
読んで思い出した。

彫刻とは何か、自分は何を彫刻だと思っていたのか
などなど
を考えさせてくれるが、それが三十年近くたっても
奇妙な印象として残っている。

そう言う違和感の体験の
位置を占めるだけの作品が存在するとしか言いようがない。


2012年6月10日日曜日

「ブロークバック・マウンテン」アニー・E・プルー

この著者の「シッピングニュース」は映画も本も良かった。
これもきっと映画はそれなりにいけるんだろう。
映画の方は見てない。
小説は、
ちょっとアーサー・ペンのデビュー作「左きき拳銃」を思い出した。
こっちは三人で、極めて一時的なはみ出しの若者だけど…
「イージーライダー」もゲイ的なんだろうか、ふとそんなことを思う。
リメイクするとしたら、こういう感じか…

読んだ直後、ルネ・クレマンの「太陽がいっぱい」を見直したが、
ヨットで殺すまでが見事に面白い。
大昔はいじめられたのとうらましいのが動機だと思っていたが、
なかなかどうして、一筋縄じゃない。
やはり大昔、淀川長治のホモっぽいという話に違和感を抱いてたが、
さすがにただものじゃありません。
前半部の三角関係がこの作品の肝。
マリー・ラフォレも妙に男顔だし。赤と黒の縦縞の背広で鏡に向かう
トムはすでにフィリップの影のイメージ。
嫉妬した相手はフィリップにではなく娘の方にではないか…

2012年5月31日木曜日

「黒澤明の遺言」都筑正昭


もともと演出も見事な黒澤が溝口健二や小津安二郎のような独自の映像空間を持つ
監督になれたのは、望遠の使い方にある。
映像作家にしたのは、望遠レンズ。こいつを独自にしたことだ。

不思議な距離感、あるいはつぶれた距離感がより日本的絵画性を作り上げている。
いや、東洋的絵画性というべきか。

これと対照的にキューブリックは広角レンズを独自のものにした。
この遠近感覚はやはり西洋的だ。

どちらも強い映像だが、民族的な感じがするところに巨匠たちのすごさがある。

2012年4月30日月曜日

「森の旅人」

作者の覚え書きには、「スピリチュアルな自伝」とある。
作者は、ジェーン・グドール。

知っている人は知っているチンパンジーなどの霊長類学者。
この人を知ったきっかけは、「愛は霧のかなたに」という映画。
すごいタイトルだが、原題は「霧の中のゴリラ」。

後で知ったが、ジェーン・グドールをゴンベの森に送り込んだ師匠リーキー
の女弟子の三人の一人が、彼女。
そしてもう一人が、シガニー・ウィバーが演じたダイアン・フォッシー。

確か二本立て鑑賞でもう一本が目当てだったと思う。
しかし、この期待していない映画、そのタイトルにもびっくりだったが、
なかなかおもしろく。演じたシガニーも「エイリアン」なんかよりも女優してはずっといい。印象的だった。
後から考えれば、実によかった。
しかしよく製作したとも思う内容だし良心的にもよく出来ていた。



2012年4月8日日曜日

「デューン砂の惑星」


奥付を見ると、昭和47年12月の新刊。
読まずにそのままとなり、
ご存知のデビット・リンチの監督した映画の方が先きとなってしまった。

この映画にちょっとした思い出がある。
かなり長い映画だったが、ある場面になると猛烈な眠気に襲われる。
仕方なく、もう一度見ると不思議な事にまたそのシーンに来ると
催眠術にかけられたように暴睡。
で、もう一回。

こんな長い映画を日に三回見たのに、そこだけブラック・アウトした
奇妙な体験を持つ映画。

そのせいか、いまごろになってフランク・ハーバートの原作を開いた。
文庫本には映画か決まったと宣伝の帯付き。

石森章太郎の絵がよかったら買い置きしていたようだ。

2012年2月26日日曜日

「母をお願い」申京淑

ひょっとしたら、
憎しみというのは、愛情よりも強い絆では…

韓国の愛憎カルチャー、憎しみや恨みは、うすっぺらな愛情よりも強烈だ。
そう、まるであの唐辛子のよう。

この小説はそんな血の濃さを感じさせる。

この物語は、
子供たちが住むソウルへやって来た母が雑踏ではぐれ迷子、
探しはじめ、三日めからはじまる。

その後も一向に消息が掴めない。
だが、捜索ものではない。

作家となった長女、大手のゼネコンに勤務する長男、
彼らの視点でオンマの人生が語られる。

オンマを現す「牛のような眼」も印象的だ。

2012年2月24日金曜日

「宮台教授の就職原論」宮台真司

就職を目指す学生ではないが、おもしろく読めた。

それにしてもやはり日本は不思議な国だ。

卒業するまで就活禁止した…いや、
まてよ。

あの学生たちがそんなに働きたいと考えているとは思えない。

そうだな。
働きたいのと、就職したいとはまったく別のものなのだ。



2012年1月27日金曜日

「オードリー・ヘプバーンとティファニーで朝食を」

原題が「FIFTH AVENUE,5A.M.」

この大女優が創ったホリー・ゴライトリーという女性像について
のルポのような本。

カポーティのことや衣装担当のイーデス・ヘッドなどを登場させ、
どのようにこの作品が出来たかのかを描いている。
ただし、ドキュメンタリー路線よりも
    テレビ番組のようなスタイルだ。


冒頭ティファニーの前でかじりつく
デニシュ・ペストリーが大嫌いだったというのがおかしい。
コーンにのっかったアイスクリームでは?
という提案を
ここは朝食なのだという監督のブレーク・エドワーズ。

それにしても映画というのは不思議だ。
これがエリザベス・テイラーでも、イーデス・ヘッドの衣装でも
この作品は上手く行かなかっただろう。

1960年オードリーというスターの新たなイメージに皆が魅了されたのだ。
今見ても十分楽しめるのは、名画の証だろう。

2012年1月18日水曜日

「小澤征爾さんと音楽について話をする」

指揮者、小澤征爾と小説家、村上春樹の音楽対談。

コンサートにはたまにしか行かないし、クラッシックもそれほど聞いている訳ではないので、
どうかなと思ったが、おもしろかった。

とにかく二人の対談を読んでいくにつれて、音楽がわかったような気になる。
ここまで「わかった」ようにさせてくれる本があるんだろうか?

素人と言いながら村上の愛好家ぶりはなかなかすごい。
異常だ。
だから、小澤との間で立ち上がってくる世界がある。

五線譜の記号、楽譜を読み込む小澤は、マーラーの曲を例えたりしない。

この楽譜を読むという行為がどんなものなのか、
さっぱり想像できないが、純粋に音楽というものがあるのかもしれぬと思えた。


2012年1月5日木曜日

「KUBRICK」ミシェル・シマン


ずいぶん前の本だけど、「猿の惑星・創世記」を見たら、
読んでみようと思った。
あの映画は、ティム・バートンが制作した新作続編とは違う。
まるで「2001年宇宙の旅」のもう一つの続編のよう。
しかしこの本のはひどい。訳が良くないし、文字が小さい。
どうしてこのサイズで、この級数なんだ。読むのが辛く、意味不明だ。
だけど、写真のレイアウトがいい。
もともと、相手は映画なのだ。
その感覚を文字だけで表現しようするのではムリがある。
内容だけなら、浜野安樹が監修した方が読みやすく、よくかけている。