この実在する浦安(この小説では「浦糟」となっている)を舞台にした話を読んで、
長年の思いが解けた。
大昔の知り合いだった森田老人のことだ。
彼の人生観というほど大げさではないが、
なんだか東京の人とは直感的に異なる土着性がずっと心に残っていた。
この本を読んで、その森田老人に再会した気分だった。
「青べか」は、ディネセンにとってのアフリカのキクユ族と同じように
山本周五郎を魅了する。
まるでマイケル・カコヤニスの「その男ゾルバ」にも似ている。
この浦安やアフリカ、クレタ島は、
近代化で一層された都会とは別の論理や規範で世界が構成されている。
別世界なのだ。
その土着性の強烈さは、まるで民俗学者の宮本常一の「忘れられた日本人」さえも思い出させる。