2009年1月30日金曜日

たまにはアンソロジー



15人の、古今の日本作家の短編集を手に取る。
こういうのはとにかく読みやすい。

しかも
安西水丸画伯のカラーのイラストが差し込まれている。
ちょっとやり過ぎくらいに感じるのは、
最近の本離れに少しでも引き寄せようとの努力か…

短編アンソロジーは、
一つ一つ小説の共通する感覚がポイントだろうと察する。

ベクトルが違った編集だと、いい作品でも
不協和音。

川端康成の娘から片腕を一晩借りる話、
三島由紀夫の別れようと言いたいが為につきあう若い恋人のその顛末など


伊丹十三と深沢七郎…、ふだんなら
手に取らない作家が新鮮で面白かった。

2009年1月24日土曜日

香月泰男「画家のことば」



山口県の三隅町へ行こうと思ったことがある。
この画家の絵が好きかどうか別にして
この人のアトリエを見たかったからだ。

まるで、
子供が集めたおもちゃ箱のようなアトリエだ、と思った。

やはりシベリヤに抑留されたこととどこかで関係しているのかもしれない。

2009年1月19日月曜日

「オリバー・トゥイスト」


言わずと知れた英国大文豪、チャールズ・ディケンズの小説。
本よりも先きに、映画のイメージがかえって読もうとする意欲を奪った。

映画は、
確か「小さな恋のメロディ」でスターになった
マーク・レスターがオリバーを演じていた。
つい最近もロマン・ポランスキーが映像化した。

しかしこの小説のおもしろが表現できるのか?

明からかに作者ディケンズの、
当時のロンドンを達観した冷酷な視線があって、
オリバーの物語の進行を見守る、

その「距離」と「関係」の仕方がこの作品の魅力だ。

かなり大胆な演出をしないと、ディケンズの皮肉な面白さは出ない。

その後この映画化の評判に関する話を聞かないところ
やはり原作本の販促にしかならなかったのかもしれない。

2009年1月16日金曜日

ビネッテの黒い線



ビネッテ・シュレーダーはドイツの魔女の肌合いを持つ雰囲気の絵を描くアーティスト。
それがエンデと組んでの本では魅力的なコラボをしている。

ミヒャエル・エンデも「モモ」では素晴らしい挿絵を描いてる。
察するに
自分で苦労して紡ぎ出した物語の挿絵を
他人に任せたくはなかったのだろう。

この本を見ると、あるいはビネッテにまかせもよかったかもしれない、

また、エンデ板とは違った「モモ」になったのでは…
と思いめぐらす楽しみがある。

2009年1月15日木曜日

アッシジに行きたくなる「聖人と悪魔」



イギリス人の作家メアリ・ホフマンによる
アッシジを舞台とした中世修道院世界のストーリー。
展開以上にこの作品を支えているのは、
修道院が教会の写本やフレスコ画制作の為に
顔料師を養成していたことだ。

これまで…少なくも私にとってはという意味だが、
この教会を彩る壁画用の色を様々な石から取り出す
技能を持つ顔料師の登場は新鮮だ。

それともう一つ。
架空の修道院で起こる連続殺人事件と平行し
サンフランチェスコ教会の聖堂、下堂の壁画、
これを担当したシエナ派のシモーネ・マルティーニと
ピエトロ・ロレンツェッティの実在した画家の登場である。

ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」がそうだったように
映画にしたらいいなと思うと感じるのは
私だけではないと思う。

2009年1月13日火曜日

古典はハイビジョン映像-「ボヴァリー夫人」



旅行する際の本として持参したのは、
この小説が適当かどうかよりも、たまたま手に取ったリョサ・バルガスの
若き小説家に向けての勧める文学の中に、
フローベールの「ボヴァリー夫人」があったという縁だ。

その時まで南アフリカへの旅行の際には
島崎の「破戒」を同行させようと考えていた。

古典のおもしろを知りながらも、
容易に読めないジレンマもある。

それだけの集中力を要するからだ。

しかし時々現代小説やそれに類するジャーナルを読んでいる自分が
「本の消費者」ではないかと感じる場面もある。

このフローベールの小説。
そのストーリーは、われわれの人生がそうであるようにありふれている。

しかし読んでいくうちの物語として自分の中で派生する印象は
鮮明な一つの自性体験でもある。
それが現代小説と如何に異なるのか…
その鮮明さ、リアリティという解像度がちがう。

そしてその強さからしか学べないものが確実にある。

2009年1月12日月曜日

アンリ・カルティエ・ブレッソン「こころの眼」


2年ほど前、ブレッソンの記録映画を見た。
映画も興味深かったが

それ以上に、
その上映した渋谷の坂に面したミニシアターが印象的だった。

まるで四角い箱。
それ自体の空間がカメラの箱、カメラオブスキュラーのようだった。

上映される映画以上の強烈な印象だったのは、
そちらの内容をほとんど覚えていないからだ。

この伝説的なカメラマンが
暗室仕事をしない、撮影だけだということを知った。

しかし写真を見れば
やはりそうだろうとも思う。

どうしこんな写真が撮れたんだろう…
と思うものばかりだからだ。

2009年1月4日日曜日

素材はいいんだけど…



これは映画の方が面白い可能性がある。

小説は、
「大人」である難民としてドイツから
亡命してきた両親の部分が多い。

期待していたのは、娘である少女レギーナから
観た未知の大地のこと。

   ここが最大の話だと思う。

遠景に、ナチスからの迫害やナイロビにおける
白人同士の民族的アイディンティティがあればいい。

これではただのノンフィクション。
この程度で様々な賞を取ったといわれると
読者は逃げる。

映画の方はどうなんだろう…
少なくとも
この本の表紙にある通り、良さそうに感じられる。